2017.05.19 金

昭和のおやつ レシピ探偵

第7話 「水ようかん さらしあんを上手に使って」

 

ずらしい和のお菓子
 昭和23年の創刊以降、昭和に発行された『暮しの手帖』で、和のお菓子のレシピ紹介は数えるほどしかありません。今回はそのひとつ、昭和40年・79
号に掲載された「水ようかん」をご紹介したいと思います。
 レアで貴重だからというのもあるけれど、季節もほどよい。みずからを水羊羹評論家と称していた向田邦子さんも「水羊羹は新茶の出る頃から店にならび、うちわを仕舞う頃にはひっそりと姿を消す、その短い命がいい(『眠る盃』より)」とエッセイに書いておいでです。

 

 

水ようかんレシピ1

水ようかんレシピ2

昭和40年刊行『暮しの手帖・Ⅰ世紀79号』より。モノクロ4ページで、材料写真は最初の見開きの中央上にあります。写真をクリックして拡大するとレシピが読めます。

 

らしあんの匂い
 でも実は再現したいと思った一番の理由は、探偵の記憶回路が、小さな材料写真の中のさらしあんのパッケージに反応したからなのです。昭和30年代~40年代。お菓子を手作りする習慣などなかった我が家の台所にさえ、さらしあんと白玉粉はありました。当時ポピュラーだったからに違いありません。丸めてゆでて水にとってさました白玉に、さらしあんで作ったあんこをかけて食べる。それはとても嬉しかったけれど、ちょっと苦手だったのが、さらしあん独特の日向くささでした。
 今となってはもう一度確かめてみたいとさえ思う懐かしい匂いなのですが、やはり気になる人は多かったのでしょう。79号のレシピを読むと「よくよくねり上げると、さらしあん特有のクセがとんでしまって、小豆から作ったこしあんとほとんど変わらず」とあるではありませんか! 昔の母に教えたかった。そしてますます再現欲が高まります。でも、今、さらしあんは、売っているのでしょうか?
 ご存じない方もいらっしゃると思うので説明させていただくと、さらしあんとは「小豆をゆでて皮を除き、乾燥させて粉にしたもの」。砂糖と水を加えて加熱、ねればこしあんになるという、昔からあるインスタントドライフードです。

材料一覧

材料はさらしあん、棒寒天、砂糖、それに塩ひとつまみです。この分量で作ると、ねりあんが少し余ります。バタートーストに塗るとおいしくいただけました。お好みで砂糖はやや控えめでもいいかもしれません。

 

の入れ方が難しい
 果たしてさらしあんは、近所のスーパーにありました。しかも袋の絵柄もそのままに。さっそく昭和40年と同じ並びで材料写真を撮影、調理にとりかかりました。
 いつものようにレシピはとても丁寧です。しかし、探偵、今回は苦戦しました。匂いよりなにより、完成形は「さらっとした舌ざわり」のはずなのに、「深型のお弁当箱2コににちょうど入る」量ができるはずなのに、できたのは1箱半弱。普通の羊羹のように硬くなってしまったのです。1kgできるはずのねりあんが、700gしかできません。そして寒天液の煮詰め加減も問題。ねるうちに火が入りすぎてしまうのです。それと包丁を真っ直ぐに入れて切るのもなんて難しい。これは経験を積むしかなさそうです。
 そんなわけで、今回は試作を2回。2回目はさらしあんの袋に書いてあった方法も導入してみました。 「尚一層美味しく召し上がって頂くには前もって2時間位さらしあんをたっぷり水にひたして置き、充分戻した後に水を切って(中略)練り上げていただくと一段と風味が増します」。
 写真は2回目のです。まだちょっと固いけれど、水にさらし、そしてねり上げるテクニックで、驚くほどクセのない水ようかんが完成。この材料で25個の水ようかんができ、当時の物価ではおおよそ「1個あたり7円」でできる、とあります。50年後の今、1個あたりの計算は15円になりました。

水ようかん

『暮しの手帖』の水ようかんは、ビニールの葉っぱの上にのっています。掲載にあわせ、まだ寒い時期に撮影したのでしょうか。今回は出たばかりの、桜の青葉にのせてみました。

 

 さて、今回探偵はおふたりの方にお話を伺いました。おひとりは、作り方を指導なさっている「東京目黒 ちもと 山下武夫」さんのご子孫。そしてもうおひとりは「根津改良さらしあん」の製造会社のご子孫です。
 山下武夫さんは昭和40年当時、目黒駅前にあった「ちもと(ちもと総本店)」の2代目に当たる方でした。
「『ちもと総本店』は創業以来オープンというか、同業者も工場に入れて指導、和菓子業界に貢献したと聞いています。初代から婦人誌などでも和菓子の作り方を紹介していたようです」と5代目の吉田裕さん。「さらしあんを使い、家庭向けに」というこの企画にも、一肌脱いでくださったのでしょう。「ちもと総本店」は現在軽井沢と東京・阿佐ヶ谷にお店を出しておいでです。
 一方「根津食品」(旧「東京根津製餡所」)の本井豪さんには、昭和37年「南極観測隊」から送られた感謝状を見せていただきました。当時南極に携行する食品としてさらしあんが選ばれていて、「全く変質せず、作業時にしばしば提供して好評であった」そう(第2次南極観測隊の食糧について/J-STAGE「農産加工技術研究会誌/1958年」より)。鎭子さんもどこかでこんな話を聞いたのかもしれませんね。
 さらしあんは、その後、製造工程に手間がかかることなどから、次第に缶詰などに市場が移行。それでも根強いファンの方がおられ、今も販売されて続けています。
「先代の時すでに商品名に『改良』とあり、正確な意味はもうわかりません。でも時代のニーズに合わせて改良を重ねてきたんだと思います。今も豆を選んだり、包装の少量化を検討しているところです」と本井さん。確かに一度に25個の水ようかんは多すぎますものね。でも小豆をモチーフにしたパッケージデザインはそのままで、お願いします。



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